くだらない内容だったら、許さんぞ。
『NIGHTMARE MAKER』(ナイトメアメーカー)
あらすじ
物語序盤(単行本第1巻)は、願望通りの夢を見られる機器「夢見装置」の虜となった登場人物たちの煩悩が剥き出しの夢を描写し、笑いを誘うエ○ティック・コメディとして描かれている。だが、それ以降は夢見装置が齎した弊害(せん妄、セックス依存症、過眠症、不登校など)の排除に翻弄される主人公とヒロインと、夢見装置を悪用しようとするサブヒロインとの対決を描いたエ○ティック・サスペンスとなっている。
これは天才発明家高校生(内田)が開発した、夢に願望を投影できる「夢見装置」により、同学校の生徒たちの様子が変わっていく学園サスペンスもの。
思春期真っ只中の、彼らの願望は単純なもので…大半の描写がエ○ティックばかりです。それを楽しむのも有りですが、本作品の醍醐味は、願望をいとも簡単にいつでも夢で実現できると、人はどうなるか?です。。
誰もが幸せを感じる素晴らしい装置である様子が描かれています。しかし、本質はこの存在が社会や世界観を変えてしまうとてつもない脅威であるということです。
作中にVR(仮想現実)という定義・表記はないですが、夢に願望を投影して体験するということはVRと言っていいでしょう。夢なので、完全に体感覚や意識を仮想現実にフルダイブ出来る仕様であり、さらにはその世界が自分の願望通りにできるのであれば….。
本作に描かれているような様々な課題やトラブルが引き起こされるのではないかと、リアルに想起させられる作品です。
見どころ
作者はとても論理的にこの話を展開していくのが上手です。天才高校生である主人公(内田)は不純な動機で自分の為に夢見装置を開発。しかし、なかなか結果が出ず、周りの人にモニタリング目的で使用させます。
そこから、日常が変わっていき(学園の異常)、さらにその装置を使い、世界を変えようと企むダークヒロイン(渡会)。途中から個々が見ている夢を映像出力化し閲覧できるようになることで、事態が加速します。それらが最終的にどうクロージングするのか気になります。
一方、ヒロイン(深見)は夢見装置を使用せずにそれを否定。夢と現実は根本的に違うという主張を最後まで貫きます。それぞれのキャラクターの心情や見解が明確に描かれているのも良いです。
仮想は現実を凌駕できるのか
ここで、作中の一部のセリフから、仮想と現実について考察してみたいと思います。
渡会
「夢は記憶に影響する…」「経験が人を変えるならば架空の記憶もまた人を変えていく」「人が理想を夢見れば世界もきっと変わるのよ」
「この夢見装置が見せる夢はただの願望じゃない いうならば不確定未来」
「大事なのは「認識」 現実でも夢でもかまわない 自分が深見さんをモノにしたという「妄想」 ただの妄想を事実に格上げする鍵」
「人間関係を変え 世界を変える」
渡会は大変頭の切れる子です。この装置の効力を見抜き、世界を変えることを見出します。未来を思い通りに実現する為の助力にもなると捉えています。妄想ではなく認識にしてしまう観点が、まさに仮想現実で経験そのものということです。
深見
「夢が現実を凌駕したらいけない」
「現実世界で願望通り生きられる人間なんていないよ」
「夢はかなわないものなんだ だから見ちゃいけないんだ でも…醒めない夢だったら?」
「みんなの願望が作り出した歪んだ仮想現実に」
夢見装置の使用を拒み続けている深見。彼女は夢(仮想現実)と現実はどんなに似ても、同一にはならないと主張します。現実で叶わないから、人は夢を見る。あくまでも夢は夢でありたいと。その願望を投影した夢は依存性が強く、さらにそこから作られる世界は歪んでいて危険性があるという強いメッセージを彼女から受けられます。
内田
「すべての人の願望が実現するにふさわしいものとは限らない そこに思い至らなかった俺の落ち度」
「人は夜見る夢によってその日の記憶を整理するんだって だから好きな夢を好き勝手に見続けることによって記憶障害が引き起こされひいては現実関係にも影響が及ぶ」
「欲望そのままの夢に耽ってしまったら果たしてこれが非現実だと虚構だとわり切れるのかと」
「夢だけでは理想は生まれない このマシンに世界をよりよく変える力はない」
「現実と夢の落差が開くほどに気がつく人間は増えていくよ この幸せには裏があるって」
願望はどれも良いことではないことも描いています。人によっては憎き人を殺めたい、窃盗をしたいなど、犯罪の快楽を求む人もいるでしょう。今後、科学の進化が発展し、VRの非現実と現実との違いがわからなくなってしまったら、なんとも恐ろしいですね。
夢見装置自体はあくまでもツールです。わかる奴にはわかる、わかる奴には使いこなせるという、自身のコントロール、意志の強さが必要です。そう、本作品は現代版の禁断の果実を描いています。
そして、昨今の技術進歩により、仮想現実に近づけている我々だからこそ、喚起させられる作品でもあります。エ○ティック好きも学園サスペンス好きもテクノロジー好きも楽しめます。全6巻ですので、すぐに読破できると思います。
VR TOKYO マンガレビュー
コメント
パッと見るとエ○ティック描写の多いだけのマンガです。しかし、キャラクター各々のセリフや本作品の本質に目をやると、とても深く考えさせられます。新技術発明品に翻弄される学園日常ドラマなので、未来感は普通評価です。